まゆ星雲(IC 5146)について調べてみました
少し前の6月21日、鳥取市さじアストロパークの103㎝反射望遠鏡で、まゆ星雲(IC 5146)を撮影してみました。コンパクトな散光星雲で、焦点距離4750㎜にちょうど良い感じで収まりました(下の画像)。
この散光星雲は、中心にある恒星が星雲を輝かせていることが、その丸い形から良くわかります。散光星雲を輝かせるためには、水素を電離する紫外線を放射する恒星でなければならず、スペクトル型でいうと、O型とB型(B型の場合は、B0とB1の一部のみ)に限られます。
そこで「CDS portal」で中心星のスペクトル型を調べてみました。
※天体名や位置を入れて検索すると、いろいろなカタログや論文、画像などが表示されます。
『Catalogue of Stellar Spectral Classifications (Skiff, 2009- )』
というカタログに、これまでおこなわれた恒星のスペクトル観測がまとめられています。カタログによって多少の違いはありましたが、IC 5146の中心星(9.3等)は「B1型」で、散光星雲になれるぎりぎりの星でした。その他の星のスペクトルも調べてみると以下のようになりました。
中心から右(西)に、反射星雲が見られます。これはA0型の星の反射星雲のようです。
(スペクトル型がA型の星は広範囲に水素を電離できないので、赤く輝けないのです)
また星雲内に点在するB型のいくつかの恒星が、星雲の青い部分(反射星雲)を作り出すのに寄与していると思われます(もちろん、中心星の影響によるHβやHγの青い光も含まれます)。
中心から少し下(南)に、明るめの星があります。これは「G0型」でした。つまり、太陽と同じくらいの恒星です。しかしながら、中心星の「B1型」と明るさはほぼ同じに見えます。これは距離が違うのか、もしくは同じ距離にあるがB1型の中心星が星雲のチリによる吸収で、暗く見えているのかのどちらかです。
ということで、今度は『Gaia』のデータで年周視差を確認してみました。その結果、
・B1型の中心星 0.68 mas
・G0型の恒星 7.63 mas
※masとは、ミリアークセカンド、つまり1000分の1秒
でした。つまり、G0型の星はIC 5146のかなり手前の恒星のようです。(ちなみに年周視差から距離を求めるには、「3.26÷年周視差」で計算できるのでB1型は約4800光年、G0型は430光年となります)
また、中心星の絶対等級(32.6光年の距離で見た場合の明るさ)を求めてみると、
(計算式は、視等級 + 5 × ( log10 年周視差 + 1 ) )
・B1型中心星の絶対等級 -2.2等
となります。しかしながら、HR図などによるB1型の恒星の絶対等級は「-5等」くらいですから、この中心星は「星雲のチリによる吸収で、3等ほど暗くなっている」ことがわかります。このことは、青く見えるはずのB1型星が赤みがかっていることからも推測できます。
また、この星雲の赤く輝いている部分の大きさをステライメージで測定してみると、約9分でした。中心星の距離が4800光年ですから、
sin 9' = 本当の大きさ/4800光年
(角度が小さいので、これで近似できます)
で計算でき、sin 9'= 0.0025 なので、
本当の大きさ = 4800 ×0.0025 = 12光年
となります。中心星がどれくらいの範囲の星雲を輝かすことができるかを理論的に調べたストレームグレンによると、B1型星が出す紫外線で12光年が光っている場合、星雲の密度は「1立方cmあたり5個」くらいになります(ちなみに地表面では1立方cmあたり10の19乗個)。
このように、天文学の研究によりわかっていることをいろいろと調べてみると、自分で撮影した天体写真から、いろいろと興味深い事柄を知ることができます。
これが面白いかどうかは人それぞれだと思いますが、地道な研究により、こんな9等星の星もきちんとスペクトル観測をおこなった先人がいて、最新の観測衛星「Gaia」のデータもネットで見ることができることなどを考えると、すごいなぁ~と思わずにはいられません。(Ori)
※ちなみにこういうことが調べられることは前田式部さんから教えてもらいました。
前田さんは門脇 修さんから習ったそうです。
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