月食分光観測で地球のオゾン層がモニターできる!?

米子工業高等専門学校 竹内彰継

 米子高専科学部は、昨年12月10・11日に東京の日本科学未来館で開催された朝日新聞社主催のJSEC2022(第20回高校生・高専生科学技術チャレンジ)の最終審査会で優秀賞を受賞しました。研究タイトルは「オゾン層モニターとしての月食分光観測」です。

 科学部は2021年11月19日(金)の月食で分光観測を行いました。もともとは本影食時の月面の色温度の測定が目的でしたが、オゾン層による吸収帯が予想以上にはっきりとらえられており、「等価幅W」により吸収量を定量化することが可能でした (図1)。なお、等価幅Wとは①式で与えられる連続光レベルに対する吸収線による吸収量の相対値で、吸収線の強さを表す物理量です。

①式




図1 月食時の月面のスペクトルの常用対数表示。
   等価幅Wでオゾン層の吸収量を定量化した。



 一方、科学部は2014年10月8日(土)にも月食分光観測を行っており、この7年間でのオゾン層による吸収量の変化を調べたところ、吸収量が増加している、つまりオゾン層が回復していることがわかりました。さらに、運良く2022年11月8日(火)の月食でも分光観測が実施でき、2021年と同様の結果を得ることができました。

 図2はオゾン層による吸収帯の等価幅と本影中心からの角距離の関係を示したものです。図より、2021年(青)と2022年(緑)の結果は同じ曲線上にのっているように見えます。つまり1年程度ではオゾン層の回復は検出できず、この曲線まわりの測定値のばらつきが測定誤差と考えられます。一方、2014年(赤)の結果は本影中心付近で明らかに2021,2022年より吸収が少ない、つまり約7年の時間経過によるオゾン層の吸収の回復が検出できたと考えられます。

 1980年代に発見されたオゾン層の破壊は、オゾンを破壊するフロンガス等の規制により、1990年代末に底を打ち、現在オゾン層は回復しつつあります。科学部ではこれからも皆既月食の度に分光観測を行いオゾン層の回復をモニターしていきたく考えています。

図2 オゾン層の吸収帯の等価幅と月食の本影中心からの距離の関係。
   図内の赤字の矢印のように、2014年の吸収は本影中心付近で有意に少ない。

鳥取天文協会 Tottori Society of Astronomy

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