アマチュア流星観測最前線⑥「スペクトル写真観測編」

 スペクトル写真の撮影そのものは1960年代から始まったが、カメラの性能や分光プリズムのセッティングなどの関係で簡単に撮影できるものではなかった。アマチュアでは三色測光として藪保男先生のグループが成功していたが、ほとんどプロの学者の分野で、先頃ご逝去された長沢工先生は数少ない研究者であった(天文ガイド2月号68P参照)。

 恒星のスペクトルは「Oh!beautiful girl Kiss me」の呪文よろしく、太陽はG型、シリウスはA型などと定型的馴染みがあったが流星はちょっと違う。それは一秒程度の短時間に起こる物理的変化が著しいたためだった。流星体自身の成分をあらわすスペクトルだけでなく、流星体と電離層、大気の間で励起されるイオンやプラズマの特有のスペクトルも観測されるので、変化に富むものだった。流星体が発光した電離層の高さによってさまざまな種類のスペクトルが見られ、さらに新たに電離した柱状の空間が流星痕となり、その痕のスペクトルが上層大気の研究に道筋をつけた。

 近年は写真観測と同様に高感度化したカメラを複数備えたり、入手しやすくなったグレージング(回折格子)をつけて撮影する人が増えた。フィルム時代では不可能だった毎秒30コマ連続出力が技術的に可能となり、0.03秒刻みのスペクトルの変化は新しい知見をもたらし、得られる情報量の多さと正確さはここ十年で驚異的進歩を遂げたが、反面撮影に成功してもスペクトル分析は専門的知識や特殊な分析ソフトを必要とする。ここにこの分野の課題がある。文字どおり流星天文学は学問でその先端には高等数学を駆使した物理学や力学が待ち受けている。一般的な流星観測とは一線を画する雰囲気はあり、私なども近寄り難さを感じていたが、これを噛み砕いて普及して下さったのが長沢工先生と、長谷川一郎先生(どちらも故人)である。次回は流星の理論計算分野をご紹介する。( 河越 彰彦 )

鳥取天文協会 Tottori Society of Astronomy

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