2021年4月のIAU(国際天文学連合)リストの流星群活動チェック ~巨人に向かう蟷螂の斧?~
河越彰彦
実在しない流星群が多い
IAU(国際天文学連合)リストの問題点を委員が共有していながら、具体的な改善活動が進んでいないのは残念という他はない。言い方がきつくなるけど品質が劣っているのを承知で世界中に売り出している悪徳企業と同じことで、決して褒められたことではない。
昨年の12月から活動チェックして感じたことは、活動が認められない流星群の多いことである。驚くことに、事実これを信用してカメラ観測の整理に使用している人がいる。本来この報告文は活動チェックが目的であるが、不本意ながら苦言を呈すことになる。
確実なのはたった一個群
今回(4月分)もIAUが確実と判定したEstablished showersもあわせて確認評価してみた。
いつものように国内からは見えない南天に位置するものや、昼間に活動する流星群をのぞいた46個群を対象にして、河越と斉藤、延17夜3660分、流星96個のデータを分析した。その結果、確実1個群、弱い活動11個群を確認した。残りの34個群は全く活動しなかったか、活動しても散在流星に埋もれて確認できなかった(別表、表1、表2参照)。
こと座流星群は毎年活動する(Established showers)定常流星群なので確実は当然である。問題は筆者が別表に第2級として区別している23個群である。これらはIAU №が大きな数字(後年追加されたことを意味している) で、中には既知の群の近くで活動しているものもある。これは暗に既知群との誤認を示唆しているように見える。
この第2級リストの23個流星群で活動が確認できたのは僅か3個群。これに所属すると思われる流星数は6個。残り20個群は影も形もない。即ち、紙上の存在。その僅かな3個群も断片的な活動である(表2参照)。
はたして眼視観測の限界なのか?
先月号で述べたようにIAUリストは写真、動画、電波観測結果から編纂されているから、全天、全夜間時間を多々の機材で見ていない眼視観測での確認は限界だろう、という指摘も予想される。それを検証してみたい。一晩を12時間とする。我々の一夜当りの観測時間は約3.6時間。眼視視野が全天の1/9(注1)とすれば、一夜のカバー比は
(3.6/12)×(1/9)=1/30
悪天候時の観測は光学機器も休むからイーブンと考えればざっくり1/30は妥当だろう。
この比率が一ヶ月適用できると考える。月間46個の流星群を光学機器が捉えると眼視観測能力は1.5個程度の捕捉に留まる。実際は現在検証中だが少なくとも2個以上は確認している。即ち眼視は格差に反しての観測能力を持っていることが想像できる。それほど劣っていない。
今月の弱い活動(ポイント2相当)の11個と、こと座群をあわせると12個となり46個の26%になる。観測能力は光学機器に比べ悲観するほどではないと判断できるので、流星群活動の眼視チェックは意味あるものと考えられる。
(注1)全天面積90×90π。眼視視野30×30π。この比は9:1
流星群の確からしさ
流星群の検出には、位置の確からしさと、存在の確からしさがある。前者は光学機器が勝っているが、後者は必ずしもそうではない。その例がIAUリストである。現に数値の羅列では存在を確定できていない。存在を確かなものにするには独立した複数の人によって確認される必要がある。機材ではなく人が主役である。近年は何でもかんでも機材やPCに頼り、実際に見たことのない専門家があちこちに新流星群を作っている。
おとめ座に分布する流星群
図1~2は3月と4月の観測図のうち、おとめ座から飛来した流星の軌跡を集めたものである。図の右上から左下に引いた線が黄道である。一部黄道から外れるものも参考のため入れた。黄道の南に軌跡がないのは仰角が低く観測しにくい理由による。
これらの図を見ると、おとめ座から流星が飛び出しているように見える。長期間の観測を同じ図に集めたので正確な放射点は決められないが、流星群の存在は把握できる。興味深いのは図1の右端に何か流星群の存在を感じる。実際に調べると先月に報告した、3月北おとめ座流星群が活動している。しし座との境界付近に放射点がある。
おとめ座には一点に収束しないものの、面として放射する範囲の存在が感じられる。これが広義の、おとめ座流星群である。3月に確認したηおとめ群も広義のおとめ座流星群としてまとめることができる。一方4月はαおとめ群が活動主体のようだ。68やγ群(№651や134)は存在が危ういと言える。つまり何かの錯誤で完成した偽流星群の可能性がある。
別表の総合判定は4以上が確実。3以下は弱い活動である。0は未確認を表す。以上。
図1 2021年3月 おとめ座から放射する流星経路図 ⒸKawagoe & Saito
図2 2021年4月 おとめ座から放射する流星経路図 ⒸKawagoe & Saito
【付記】 流星の観測指導には、上の図のような長期間にわたる流星をひとつの図に集めると実在しない流星群を作るので推奨されていない。しかし皮肉なことに近年では一晩、二晩の光学機器観測で実在しない流星群が量産されている。そこで筆者は意図的に実在する流星群を炙り出すため(同時に偽の流星群も)禁じ手を使った。
【お断り】筆者は権威ある研究団体の会員ではなく、現在の先端技術を駆使する流れにも属さず、国際的な舞台では全く無名の存在である。そんな市井の観測者が恐れ多くもIAUという超権威組織が作った流星群リストに疑義を毎月唱えている。本報を英訳して提出しても恐らく国内の査読は通らないだろう。それを承知の上で今後もIAUリストのチェックを続ける。それが蟷螂の斧であっても。以上。
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